初恋の絵本


「彰吾」

「ああ?」

「家族の話して」



彰吾の淹れたお茶を飲みながら、
ニコニコ笑う。



「は?嫌だし。家族嫌いだし」

なんて言いつつ、
お父さんのことを尊敬してるのを
知っている。

「なんで嘘つくかな。彰吾はお父さんみたいになりたいんでしょ?だから、いつもお手伝い頑張ってるんじゃない」

「違えし。一番になりたいだけだし」

「一番?なんの?」

「兄弟の中で一番だよ」

「彰吾っえ、そんなに兄弟いたっけ」

「いる。知らない兄弟もいる。愛人の子供合わせたら教室の人数くらいいるんじゃねえの?」

「ええ。すごい。国ができそう」

「そうそう。国だな。親父が王様。で、俺が次の王様になりたいの」

「へええ」



ほら。

やっぱり誇らしげだ。



「いいね。王国だ」

「青山帝国」

「なんか、イメージが残念やなったよ」

「なんでだよ」



王国。

そうだなあ。家族って王国みたい。

他の人間は入れない。

家族だけの神域。



「仕方ねえから、お前も俺の王国に入れてやるか」

「無理。彰吾の国は彰吾で作らないと」

「なんでだよ。国は一人じゃ作れねえだろ?」

「だからこそだよ」

テーブルの上にあった
お菓子を摘む。

「私は私だけの王国を作りたいの」

「敵国気取りかよ」

「違う違う。彰吾の国と私の国は違いすぎるかなって」

「違い?」

「ルミナスがいてえ、ルミナスのグッツで溢れてる…」

「いやいや、それお前の部屋だろ?」

「ええー、なら。コットンキャンディにハートのカラースプレーがキラキラ〜みたおな水玉リボンのチョコレートの王国♡」

「無理だな」

「でしょ」



現実は嫌と言うほど分かるから、
せめて空想だけでも、
自分の好きにしたい。

今とは遠すぎてかけ離れた世界が、
私にはちょうどいい。



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