初恋の絵本
そのあと、彰吾のお父さんの部下の人によって、女の人は無理矢理外に追い出された。
「彰吾」
元通り。
いつもは狭いと感じていたこの部屋が、
急に広くなった気がした。
「どうして私のこと、彼女じゃないのに彼女って言ったの?」
「……………」
「その場から逃れるための言い訳?」
問いかけた私を、
まだ抱き締めている彰吾の腕が
きつく縛る。
彰吾の腕の中。
必然的に押し付けられた彼の胸で息をする。
タバコ臭い。
嘘の大人の匂いがした。
「ちゃんと好きになった人を彼女にした方が、いいよ」
「………」
「彰吾のこと好きになる女の子は、これからもっと増えるよ」
本当の大人になって。
もっともっと魅力的になって。
「彰吾。好きな人いるんでしょ?」
「………」
「前に、恋してるって言ってたよね。だったら、その人に…」
「俺は……!」
「……俺は」
何か言いたげな彰吾の唇は、
それ以上言葉を紡がない。
「………」
諦めたのか、彰吾の瞳が揺れる。
「……そうだな。好きなヤツと付き合えるのが一番だな」
「なら…」
「お前はハルと付き合うのか?」
「………」
「ハルのこと好きなのか?」
さあ。
私は……一体、誰が好きなの?
「好きじゃないよ。気になるだけ」
ハルのこと好きなのか分からない。
ただ、会いたいだけ。
私のハルに。
あれが恋なのか、確かめたいだけ。
「本当だな」
「うん」
「絶対?」
「……うん」
「分かった」
ホッと安堵の息をつくと、
彰吾は私を解放してくれた。
「俺、もう好きじゃないやつとは付き合わないから」
うん。
大切な彰吾には誰よりも幸せになってほしいよ。