初恋の絵本
「心実!青山から離れろ!」
片腕を、ハルが掴んだ。
右腕に彰吾。左腕にハル。
どちらのぬくもりも、
優しくて痛い。
「彰吾。この手放して。話なら、放課後聞くから」
「嫌だ。離さない」
「青山!」
「好きだから。俺だって、お前のことずっと好きだったから……!」
口では意地悪なことばかり言ってたくせに。
私の嫌がることは
絶対にしなかった彰吾。
「悔しい」
そんな彰吾が……。
「いつもなら、気の利いた言葉が考えなくても出てくるのに。お前のことになると何も言えなくなる。今言わなきゃいけないのに。今しかないのに。俺はそうやって、肝心な時に動けなくなる」
「…………」
「俺とハル。どっちか選べ。そうしたら、諦める」
「……え」
「ずっと考えた。いい言葉なんか思いつかない。だったら正直に話す。
心実。俺はお前が好きだ。だから、ほかのヤツと付き合うのを見たくない」
「彰吾……」
「友達にはなりたくない。彼氏じゃなきゃヤダ。お前じゃなきゃ嫌だ」
「もし、私がハルを、選んだら……」
「さよならだ」
「それって、もう会わないってこと?私と、ご飯食べないってこと?」
私の質問に。
無言で彰吾は頷いた。
「イヤだ!そんなのイヤだ‼︎ヤダよ。彰吾……嫌だ……」
あの日々は。
一緒に過ごした毎日は。
たったこれだけのことで、
消えてしまうものなのだろうか。
「なんで?彰吾にとって、私と一緒にいた時間は……そんな簡単に捨てられるようなものだった?」
「……………」
「ごめんね。私、選べる。ハルが好き。でも、彰吾は大切。大切過ぎて言葉に出来ないよ。お父さんとお母さんくらい、選べない。そんなの無理だよ!」
「……心実」
「彰吾……ごめん。私バカだから、どうしていいか分からない。でも、彰吾が困ってるのわかる。辛いって思ってるのわかる。友達だから。長い間、私と一緒にいてくれたから。ごめ…ごめんね…」
あのね。
彰吾のいろんなこと知ってる。
昔私があげたひよこの人形。
大事に玄関に飾ってあるよね。
ピヨ子って名付けてさ、話しかけてるよね。
『彰吾。元気ないピヨね〜』
『そうか?』
『そうピヨよ。ピヨ子にはお見通しピヨよ。元気出すピヨよー‼︎』
『あんがとな。ピヨ子』
クールなふりしてて、
実は彰吾って可愛いなって。
私、玄関で笑ってたんだよ。
ありがとう。
ピヨ子を大事にしてくれて。
そしてね。
彰吾。
本当は料理できるんだよね。
できるくせに。
私とご飯、一緒に食べるために。
料理が出来ないって。
嘘ついてる。
優しい嘘をつかれてて。
私は知ってて騙されてた。