初恋の絵本
私の右腕が。
突然、自由になった。
「ごめんな」
体が半分なくなった。
私の半分を支えてくれた大事なものが、
体からスルリと抜けてしまったような
感覚。
「彰吾……!」
「行くな!」
「ハル?」
思わず追いかけようとした私を
ハルが阻止した。
「でも、彰吾が……」
「心実は、俺だけじゃダメか?」
「え?」
「俺じゃ、青山がいなくなった分を埋められない?」
「ハル、が?」
「ごめん。俺は青山が離れてくれるなら、嬉しい」
「………」
「その代わり。俺がいるから」
返事を言う前に、
チャイムがなった。
緩んだハルの腕から
素早く抜け出した。
「心実!」
世界に一人しか。
彰吾はいない。
あの人の代わりになる人間なんて。
この世にはいない。
けれども、選ばなければならなかったんだ。
二つに一つ。
二つ欲しいなんてワガママは
許されない。
辛くて。
大事な人を突然失う
哀しみは知っているんだけれども。
失うのを自分で
決めなきゃいけないのは、
もっと辛くて。
泣きそうになるけど、
泣いたらいけないって。
歯をくいしばる。
彰吾にもハルにも。
嫌な思いをさせてるのは、
私が原因なんだ。