初恋の絵本
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放課後、彰吾の家に向かった。
ここには戻らないって言ってたな。
誰もいない部屋に入る気にならず、
ビルを見上げた。
彰吾。
今、どこにいるの?
「心実」
後ろから声をかけられて、
ドキッとする。
この声は間違いない。
今、一番会いたくない人物。
「え?なんで逃げるの?」
ハルから慌てて逃げ出す。
練習に見にこないから、
怒って追いかけてきたに
違いない。
「待って、心実!」
「やっ!」
いくら私の足が速くても。
現サッカー部vs現帰宅部
ではどう考えてもハルが強くて。
追いつかれてしまった。
「どうして逃げるの?俺、また何かした?」
「……だって、怖いんだもん」
「怖いって。もしかして、俺のこと?」
こくん。と。
だまって頷く私に
ハルが戸惑っている。
「そう言えばさ。ずっとこのビル見てたけど、どうしたの?部屋まで行かないの?」
「……行かない。どうせ彰吾は部屋にいないし」
「こないだ仲直りしたんだっけ?」
「したけど……」
「携帯は?」
「連絡してない。直接会って話したいから」
「そっか。心実は携帯きらいだもんね。………って。あれ、彰吾じゃね?」
ハルが、隣の駐車場を指差した。
バイクのエンジン音がする方向。
黒いヘルメットを脱いだ
彰吾が立っていた。
「彰吾!」
「どうする?追いかける?」
「追いかけるって……」
そのには高い高いフェンスがある。
なければ、私でも走っても
余裕な距離なのに。
でも、ここからじゃ間に合わない。
駐車場の入り口は、
ぐるっと回ったところ。
その間に、彰吾はバイクでどっか
行ってしまうだろう。
「ダメ。間に合わない」
「なんで?そこにいるじゃん」
「フェンスあるもん。それに、入り口はずっと向こうだし……」
「そんなの、乗り越えればいいんだよ」
「無理だよ!すごい高いし」
「大丈夫。それに心実だって運動神経いいじゃん」
「そんなこと……」
「だって足、ものすごく速かった」
それだけ言うとハルは勢いよく走って。
そのまま。
羽でも生えてるかのように、軽やかに。
自分より高いフェンスを
乗り越えてしまった。
ぽかんとしてる私だけが、
フェンスの外。
「ね?」
悪戯が成功したみたいに
ぺろっと舌をだして笑うハル。
「ほら心実もおいでよ!」
「ハルすごいね!飛んでた!」
「あはは。バスケやってたからね」
「サッカーだけじゃないのね」
「あ……うん。バスケも好きだよ」
ひらひらと私に手を振ると、
彰吾のいるとこに走っていった。