初恋の絵本



「彰吾」

「あ?なんでてめえがここにいんだよ」

「迎えに来たよ」

「帰れ。お前のツラ見てるだけで気分悪りぃんだよ」

「それって嫌われてるってこと?」

「つか嫌ってんのお前だろ?一緒にすんなよ」

「嫌ってないよ。むしろ好きだよ」

「ふざけてんのか?ああ?」

「真面目だけど」

「……喧嘩売ってんなら買うぜ?学校じゃねえしな」

「売ってないから買わないで」

「死ねよ」

「うわ!危なっ!」

「次。当てるぞ」

「いきなり蹴りとか。ないわー。普通は殴ったりするんじゃないの?」

「お前さあ。喧嘩したことねえだろ?したことねえのに、噛み付いてくるんじゃねえよバーカ」

「あ?ああ。そうなの?なんかごめん」

「………?」

「ちょっと!やめてよ彰吾‼︎」



私も自分を信じてフェンスを飛び越える。

駐車場の中では、
彰吾がハルの襟首を絞めていた。




「心実。彰吾、捕まえたよ」

「自分が捕まえられてるくせに何言ってんだコイツ」

「いいから!その手放しなよ彰吾」

「……なんなんだよ」


はあと大きなため息をつくと
渋々ハルを放してくれた。





「なんか用か」

「うん。あー……」

本当はハルのことで相談したかったんだけど。

ハルは隣にいるし。

こんな状況で言えない。




「用っていうか」

「あれ?用があるんじゃないの?」

「………」

「う〜ん。難しいな」



訝しげな目で
ハルを見る彰吾。

私も私で何も言えないし。




「あ。そうだよ。部屋だよ部屋。彰吾の部屋に戻って、前みたいに夕飯が食べたいって言ってたんだ」








私。彰吾に会ってどうしたいのか。

自分でも分かってなかった。

ただ、会いたい としか。

考えてなかった。













「彰吾。………戻りたい」














あの部屋に戻りたい。




当たり前だった毎日は。

いつのまにかなくなって。

彰吾がいなくなって知った。



鍵は持ってるから。部屋には入れる。

窓からの光と。私がポツリ。

これじゃ、自分の家と変わらない。

私だけ部屋にいても仕方ない。






彰吾がいなきゃ意味がない。






彰吾がいて当たり前だったのに。

そうじゃなくなって。

また、ひとりで。哀しくて。




改めて彰吾の大事さ。大切さが分かった。



私は彰吾がいなきゃ
生きていけない。


さすがにそれは言い過ぎかも
しれないけど。


そのぐらい。


かけがえのない。存在なんだ。






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