初恋の絵本



「あの部屋は、彰吾がいないと意味がないの……お願い……私にとって、大切な場所なの」

「心実……」

「ワガママだってわかってる。あんなことがあって、勝手なのは分かってる。でも、戻りたい。また一緒にご飯が食べたい……」





彰吾がどっかに行けないように。

私の前から消えてしまわないように。

彰吾の服の袖をギュッと握り締める。




「離せ。服がシワになる」

「……ごめん……」

「分かったから。部屋くらい、戻ってやるから」

「……うう……、彰吾ぉ…」

「なんで泣くんだよ」

「だって……嬉しくて……」

「お前。そんな泣くキャラだったか?」

「違う。泣くのは嫌い……だけど、最近すごく辛くて。もうなんか、頑張ってもダメなの……」

「……………」




何か言いたげに私を見つめると、
彰吾の手が私の頭に触れようとした。

けれど。

その手が私に触れることはなく。

そのまま、宙を描いて、
戻っていった。




「帰るか」

「……うん」

「なんも食材ねーぞ」

「ん」

「夕飯出ねえからな」

「なら、そこのスーパーで買えばいいじゃん。夕方だし、特売のはずだよ」

「はあ?」

「今日の献立なににする?」


スマホを取り出したハルが
はいと画面を見せてくれる。


「だからなんなんだよお前は⁉︎帰れっつってんだろ!」

「心実を置いて帰れない」

「彼女置いては帰れないってことか?なら安心しろ。俺はコイツに一度も手出したことねえから」

「うん。知ってる」

「なんで知ってんだよ!」

「ずっと見てたから」

「なんだそりゃ。怖えな」

「あはは。いいじゃん。俺にも夕飯食わしてよ。心実から彰吾の話聞いてたら、お腹すくんだよ」

「心実。お前、コイツに何話したんだ?」

「餃子とかすき焼き作った時の話」

「……あー」

「俺も仲間に入れて欲しい」

「仲間って……」

「俺もね。家に帰っても誰もいないから」





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