恋輪(RENRIN)
忘れてたというより、わざと記憶から消した男。

当時、大学入学したての私を、
ナンパしてきた3年の男。


 それが亨だ。


高校時代から彼氏に不自由したことなかったけど、
大人の雰囲気のある亨を一目で気に入った私は、
多分珍しく積極的だった。

けれど、一か月ほどしたある日、
私は突然言われた言葉で別れた。



『本気で人を愛せない女に、
 本気にはなれない。』


『意味が分かんない。』


そう返す私に、

『言っとくけど、お前が本気になれる男は俺だけだぞ』

悔しくて、屈辱だった。

学部はちがうけど、
同じ大学の構内だったから、
何度も出くわして、避けて過した。


風のうわさに
外資系の有名商社に入社して、
海外勤務だって聞いてた。


なんでこんなところで会うの。


私は、じろりと亨を見据えると、


「偉そうに、人に説教した男がコンビニの店員?

フリーターなの?

会社クビにでもなったの?」


思いっきり皮肉を織り交ぜて言ってやった。

亨は顔を緩ませて、

笑う。

「悪かったな。

あいにくクビにはなってない。

実家なんだよここ。

昨日、
こっちに帰って来たばっかりで、
店番頼まれただけ。」
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