イセモノガタリ
くく、と愉快げに笑う鬼。

そして、ふ、と真顔になって言う。

「……喰うぞ?」

ついに耐えられなくなった男。

「う…うあ…あ…っ、

あああああああああああああっ!!」

弓を捨て、服の裾を振り乱して外に飛び出した。

泥だらけの地を足掻き、ばちゃばちゃと去っていく。

「醜いな……」

顔をしかめた鬼は、しかし蔵の奥に声を掛けた。

男に向けていたものとは全く違う、優しい声で問いかける。

「さて…これで未練も消えたか?」

声が差し向けられた辺りで、微かに絹ずれの音がした。
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