イセモノガタリ
「俺はここ…蔵の中で見張りをしている」

男が言うと、眉尻を下げる姫。

「貴方も休みましょうよ…。私より疲れているでしょう?」

優しい声に言われた男は、このまま姫と蔵に入って休みたいという衝動に襲われた。

二人で寄り添い眠れたら、それがどれだけの癒しになるだろう。

しかし、それはできなかった。

「…俺達は、追われている身だ」

いつ追っ手が来るかも分からない状態で、それはできなかった。

何より、大切な者達を捨ててまで姫を選んでおいて、ここで楽をするのは許せなかった。

駆け落ちとは、いわば“最終手段”なのだ。

他のあらゆるものを捨てて1つの愛だけを求める。

成功以外に未来などない。
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