イセモノガタリ
「……は?」

頭が真っ白だ。

姫どころか、人一人居ない部屋。

初めてここを覗いたときと同じ、がらんどうだった。

「ひ……姫」

部屋を見渡すも、やはり何もない。

まさか、一人で逃げた?

そんな馬鹿な。

何しろ箱入り娘、姫には遠くまで行く体力も度胸も無いはずだ。

しかし、それならば何処へ。

戸口には俺がずっと居た。

どこかになど行ける訳が無いのだ。

何があった。

男には皆目見当が付かない。

苛立ち紛れに近くの壁を殴ると。

「おい」

男の後ろから低い声がした。
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