【短編】竜の追憶
飢餓時代
ぼくは正式に宙軍に籍を置いていた。


あの寂れた田舎町を後にしてから…10年の月日が流れている。


ぼくは一端の『ドラッケンライダー』を名乗っていた。




竜に逢いたい。




その想いがいつの間にか、ぼくの心に蜘蛛の巣のように張り巡らされている。


底なしの泥沼の汚泥からゆっくり消え発つ気泡のように…。


ゆっくりと。


ゆっくりと…。


竜に逢いたいその想い。




ぼくが強く憧れる竜はここ20年来、一度も世界に現れていない。


ある学者先生は、永年の人間たちの努力が実り、最後の一頭に至るまで、竜を駆逐出来たとTV番組で力説していた。


大方の連中も似たり寄ったりの考えだった。


もう…竜はいない。


信じたくない。


だって、


ぼくは竜に逢うために生まれてきたんだから。




なぜなんだろう。




この疑問がゆっくりと、逢いたい想いを追うように、心を満たしていく。


ゆっくりと。


ゆっくりと…。




そんな中…宙軍の存在そのものの存続が、俄かに世間を騒がせていった。


軍備は縮小の一途を辿り、ぼくらは肩身の狭い状態へと追い込まれていった。


世界共通の敵がいなくなった途端、各国間に微妙な緊張感が生まれ、世界が混乱し始めたようだ。


初めて人間同士の戦争が勃発した。


深い悲しみが世界に充ちた。


竜がいなくなったから。


僕ら人間が竜を絶滅させたから。


一部の人々は竜を切望した。


竜さえいれば戦争は起きなかったからだと。


でも、


ぼくは彼らと少し違った


ぼくは、ただ、




竜に逢いたいだけ。




逢って伝えたいことがある。




なぜなんだろう…と。




そして…。


宙軍が解散する前日、事件は起こった。


30年ぶりに竜が宙(そら)を翔けた。




ぼくは、はやる心を躍らせ格納庫へと走った。


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