【短編】竜の追憶
人の時代
3機編隊が3組、18条の軌跡を残し、青の世界を切り裂いて行く。


雲を突き抜け朝陽に機体を晒す。


オレンジ色に煌めく機体は最後の竜激に挑む勇者の姿。


宙軍にある機体はこれだけだった。


ぼくの衿には隊長を示す星のマーク。


全長60メートルに及ぶ金色の飛竜が眼下の山脈スレスレを優雅に羽ばたく…初めて見るはずの竜なのに、懐かしさが込み上がる。


光の粒子が竜を中心に空中に散布されていく。


有害な硫酸の猛毒も、見ようによっては、荘厳な光のシンフォニィを奏でている。


『デルタワンから各機へ…』


全機へ無線で呼びかける

『フォーメーション、アルファにて殲滅開始…ブースター点火、3、2、1ファイヤ!』


右舷を飛行するガンマ小隊3機が、フルスロットで飛竜の周囲へと20ミリ鉄火弾を連射する。


竜の硬い鱗に阻まれ弾かれる鉄の弾丸。


鉄火弾による威嚇射撃の中、左舷の小隊がブースターを点火する。


鉄火弾の射撃の隙をつき、3つの電磁網が飛竜の大型の翼を搦め捕る。


浮力を失った竜が錐揉み状態で墜落を開始。


最後の仕上げ。


可変アームにソードを構え、ぼくたちは竜を追った。


ぼくは…あんなにまで夢見て、憧れた竜を殺戮の対象になぜ選んだのか。


ぼくは…なぜ…竜を殺すのか…。


ぼくが…人間だから?


なぜ…僕ら人間は竜を殺すの?


ぼくの心のずっと深いところから…悲しみに似た想いが、ゆっくりと頭を擡げた。




なぜなんだろう…と。



懐かしさを伴った悲しみの追憶がぼくを包み込む。


刹那。


青白い三剣が電磁網ごと飛竜を切り裂いた。


二翼と頭を失った竜が、ぎざぎざの岩肌に激突する…。




黒煙混じりの土砂が噴き上がる。




なぜなんだろう。




ぼくは無線から流れる仲間の喚起の中…一筋の涙を流していた。




なぜ…僕ら人間は竜を殺すの?

なぜ…竜は抵抗せずに人間に殺されるの?


なぜなんだろう…。




竜の子供たちは人間だから…そう聞こえた気がした。
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