赤い流れ星3
side 和彦
*
(良い気分だ……)
昨夜はさんざんだった。
アンリの行き付けの店に行き、愛想の良いマスターと話しながら良く飲んで歌って…とても楽しい時間を過ごしていた筈だった。
ところが、途中からの記憶がない。
この前、あんなことがあったばかりだというのに、俺は性懲りもなくまた酔い潰れてしまったんだ。
俺が目を覚ました時にはアンリはもう店にはおらず、明日は仕事で早いから帰るという短いメッセージがコースターの裏に残されていた。
「マスター、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「いえいえ、構いませんよ。
昨夜は私も久し振りに楽しい酒を飲めた。
だけど……」
マスターは何かを言いかけ、そのまま口篭もる。
「何かありましたか?」
「…………あ、いえ。
そんなことより、今、タクシーを……」
「あ……それは結構です。
それと、申し訳ないのですが、車を駐車場に置かせていただいて良いですか?
後で、家の者に取りに来させますので……」
マスターは快く承知してくれた。
外に出ると、ひんやりとしたとても心地良い風が吹いていた。
俺は、通りに出てタクシーを拾うつもりだったが、その風のため急に気持ちを変えた。
この気持ちの良い夜明けの道を家まで歩いて帰れば、酒のにおいも少しは消えるかもしれない。
つい先日、羽目をはずしすぎたことを反省して美幸にゲーム機を買ってやったばかりなのに、また同じ事をしてしまったという事実は出来る事なら知られたくない。
夜通し会社で仕事をしていて、寝る前に少し飲んだということにしておけば、美幸の手前、体裁が付く。
(俺もせこいことを考えるな…)
俺は、俯いて自嘲しながら、ひたすら家に向かって歩き続けた。
まだ酔いが残っているのか、どこか少しぼんやりとした気分で、足だけが勝手に動いていく。
身体が温まり汗ばんで来た頃、ようやく家が見える距離まで近付いた。
ふと時計に目を落とすと、すでに一時間程歩いていた。
疲れてはいなかったが思っていたよりも遠いものだなと考えた時、俺の後ろを一台のタクシーが追い越して行った。
乗客はいないようだ。
なにげなく見ていると、その車のルートからどうやら大河内さんの家に向かっているのだとわかった。
こんなに朝早くから大河内さんは仕事にでも出掛けるのか?
それに、あそこにはお抱えの運転手がいそうなものだが……
そんなことを考えていると、タクシーは思った通り、丘を上り、それと同時に門から出て来る人影が見えた。
(あれは…!)
野々村さんだった…
そして、その傍らにいるのは、大河内さん…
俺は、咄嗟に物影に身をひそめた。
(良い気分だ……)
昨夜はさんざんだった。
アンリの行き付けの店に行き、愛想の良いマスターと話しながら良く飲んで歌って…とても楽しい時間を過ごしていた筈だった。
ところが、途中からの記憶がない。
この前、あんなことがあったばかりだというのに、俺は性懲りもなくまた酔い潰れてしまったんだ。
俺が目を覚ました時にはアンリはもう店にはおらず、明日は仕事で早いから帰るという短いメッセージがコースターの裏に残されていた。
「マスター、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「いえいえ、構いませんよ。
昨夜は私も久し振りに楽しい酒を飲めた。
だけど……」
マスターは何かを言いかけ、そのまま口篭もる。
「何かありましたか?」
「…………あ、いえ。
そんなことより、今、タクシーを……」
「あ……それは結構です。
それと、申し訳ないのですが、車を駐車場に置かせていただいて良いですか?
後で、家の者に取りに来させますので……」
マスターは快く承知してくれた。
外に出ると、ひんやりとしたとても心地良い風が吹いていた。
俺は、通りに出てタクシーを拾うつもりだったが、その風のため急に気持ちを変えた。
この気持ちの良い夜明けの道を家まで歩いて帰れば、酒のにおいも少しは消えるかもしれない。
つい先日、羽目をはずしすぎたことを反省して美幸にゲーム機を買ってやったばかりなのに、また同じ事をしてしまったという事実は出来る事なら知られたくない。
夜通し会社で仕事をしていて、寝る前に少し飲んだということにしておけば、美幸の手前、体裁が付く。
(俺もせこいことを考えるな…)
俺は、俯いて自嘲しながら、ひたすら家に向かって歩き続けた。
まだ酔いが残っているのか、どこか少しぼんやりとした気分で、足だけが勝手に動いていく。
身体が温まり汗ばんで来た頃、ようやく家が見える距離まで近付いた。
ふと時計に目を落とすと、すでに一時間程歩いていた。
疲れてはいなかったが思っていたよりも遠いものだなと考えた時、俺の後ろを一台のタクシーが追い越して行った。
乗客はいないようだ。
なにげなく見ていると、その車のルートからどうやら大河内さんの家に向かっているのだとわかった。
こんなに朝早くから大河内さんは仕事にでも出掛けるのか?
それに、あそこにはお抱えの運転手がいそうなものだが……
そんなことを考えていると、タクシーは思った通り、丘を上り、それと同時に門から出て来る人影が見えた。
(あれは…!)
野々村さんだった…
そして、その傍らにいるのは、大河内さん…
俺は、咄嗟に物影に身をひそめた。