赤い流れ星3
「なに言ってるの!
野々村さん…十年前の事を思い出して御覧なさい。
あぁ、あの時は若かった…って思うでしょう?
今から十年経った後、今のことを思い出したらあなたはやっぱり同じように思うはずよ。
なのに、今のあなたは今の自分のことをおばさんだなんて言ってる…
おかしいと思わない?
それにね、おばさんだからお化粧しないなんて、そんなのおかしいわよ。
どんな人をも綺麗にしてくれる魔法を使わないなんて、すごくもったいないことよ。
お姉ちゃんだって、おばさんだって、おじさんだって、可愛いとか綺麗だとか言われたら嬉しくなるもんでしょう?
第一、おしゃれってとても楽しいものよ。
魔法がうまくいくと周りの人の態度も変わるし、魔女にでもなったつもりで日々魔法の練習を積み重ねて、あなたの周りでたくさんの奇蹟が起こさなきゃ!」



タカミーさんはテレビで見るよりもさらに饒舌で…お話を聞いていると思わず前向きな気持ちになって来る。
なのに、その間、少しも手が止まることはなく、私の伸ばしっぱなしの髪にどんどんはさみが入る。
さすがにカリスマ美容師と言われる方だ。




「野々村さん、結婚は?」

「ま、まだです。
もう一生もらい手はないと思います。」

「またそんなこと言う~
……それで、好きな人はいるの?」

「え……?ま、ま、まさか!」

「ふ~ん、いるのね。
じゃあ、私が特別の魔法をかけてあげる!
野々村さんが、好きな人と絶対にうまくいくようにね!」



簡単に見破られてしまった。
でも、私の好きな人は、手の届くような人じゃない。
タカミーさんの魔法がどれほどすごい威力を発揮しても、絶対に無理…そんなことはわかってる。
だけど……タカミーさんに自信満々な顔でそんなことを言われたら、確かに気持ちが高揚して来て……
うまくいくなんてそんなたいそうなことは無理でも…もしかしたら、青木さんに少しくらいは誉めてもらえるかもしれない。
変わったって気付いてもらえるだけでも嬉しい。
それは、たとえ、その時だけだとしても私に関心を持っていたたけたってことだもの。

その髪型似合ってるなんて言われたら…考えるだけで、思わず顔がにやけてしまい、私はそれを隠すのに必死だった。
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