赤い流れ星3
(くそっ!)



俺は今来た道をまた引き返した。
馬鹿なことをしていることは重々承知しているが……このまま見過ごしてしまったら、後悔することもわかっている。
大河内の爺さんに相談するにしても、事の成り行きを把握しておく必要がある。
そうだ……美咲さんもひかりも大河内さんの親しい友人なんだ。
その二人が、万一、あの男のせいで仲違いでもすることになったら、俺はあのじいさんに会わせる顔がなくなってしまう。
知っていて見過ごすなんて、あまりに不誠実だ。
やっぱり、このことはじいさんに相談すべきだ。
だから、俺はここにいなきゃならないんだ。



(……くっ)

なぜ、そんな言い訳染みたことを考えてしまったのか……
今度はそんなことが俺を苛々とした気分にさせた。

……最悪だ。
ひかりのことになると、なぜ、俺はこんなにも振りまわされてしまうんだ?
……あぁ、もうやめだ。
そんなこと考えたってどうにもならない。
今はただあの男の様子を探る事だけに専念しよう。



そう考えて俺は、美咲さんの家の前に近付いた。
表札には「野々村」の表札。
美咲さんは、野々村っていうのか……
実家住まいなんだな……



俺はまた少し離れた場所に移った。
このあたりは人通りが少なくて助かる。
ずっと、こんな風にうろうろしてる所を誰かに見られたら、不審者に間違えられかねない。



(いや……俺のやってることは十分不審かもしれない……あ!)



不意に扉が開き、あの男が出て来た。
俺は慌てて身を潜める。



(……あ!)



男の後に続いて出て来たのはひかり。
そして、野々村さんが出て来て、男がひかりの頭を後ろからこつんと押した。
ひかりはそれに従って、美咲さんに向かって頭を下げ、それに対して美咲さんは何度も頭を振った。
そして、三人は門を出て、ひかりと男が車に乗りこむ。
男は窓を開けて野々村さんに小さく頭を下げ何事かを話し、美咲さんは去って行く車に向かって手を振った。



(……なんだ、そういうことだったのか……)



今の光景から俺はすべてを悟った。
あの二人の親密な雰囲気からしても、二人がただならぬ関係であることはよくわかる。
……あの二人は一緒に暮らしてるんだ。
きっと、なんらかのことで二人はちょっとした喧嘩をして、ひかりは家を出て美咲さんの家に来た。
そして、それをあの男が迎えに来た……



俺は、自分がとんだ道化だったことを思い知った。
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