赤い流れ星3




「ほんま、ええ肉やわぁ。
お口の中で勝手に溶けはる。
この肉食べるのに、歯~いらんな。
いや、歯茎もいらんわ。」

慎二の冗談に、ひかりや美咲さんはくすくすと肩を揺らした。



あいつ自身のキャラや、この地方のはんなりした方言のせいなのか、ひかりも慎二に対してはとてもリラックスした表情を見せる。



「シュウも、もっと食べんか。
酒はどうじゃ?
もし、違う物が良かったら……」

「いえ、これで十分です。」

「……のう、シュウよ。
前にも言ったはずじゃがわしにはもっとフランクに……その、敬語なんてやめてくれんかのう。」

どうしてだろう?
この爺さんは、なぜそんなことにこだわるんだろう?



「あ……
でも、本当に良いんですか?」

「もちろんじゃ。
おまえさんには、もっと偉そうにされた方が自然な感じがするんじゃ。」

「大河内さん、もしかして……M?」

「はは……バレたか。」



ビルのオーナーであり、さらに俺よりもずっと年上の爺さんと馴れ馴れしい口をきくのには多少の抵抗もあるが、本人の希望ならば仕方がない。
前にもそう言われていながらやはり完全には実行出来なかったが、ここまで言われては従うしかなさそうだ。



「じゃあ、今日はそうさせてもらう。
よろしくな。」

「おぉ……シュウよ、ありがとう!」



爺さんは俺の手を取り、潤んだ瞳で俺を見上げてその両手に力を込めた。
なんとも不思議な気分だ。
そして、俺は、もう一つ、おかしなことに気が付いた。
美咲さんもまた爺さんと同じように、どこか感動したような顔つきで爺さんをみつめてた。

きっと、なにかがあるんだ。
……そうだな。
たとえば、俺が爺さんの息子に似てるとか?息子でなけりゃあ孫かもしれない。
そして、その息子だか孫だかは若い頃になんらかの事情で亡くなってるとか……?
そう考えれば、納得は出来る。

まぁ、いろいろ考えたところで本当の理由がわかるはずもないが、仲良くなればそのうちに話してくれるかもしれない。
とりあえず、今は理由は気にせず、爺さんの言う通りにしておくしかなさそうだ。
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