赤い流れ星3
「ねぇ、野々村さん…」
「美幸さん、あの…」



同時に発せられた私と野々村さんの声が重なる。



「何?野々村さん…」

「え…あ…あ、たいしたことじゃないんです。
高い所はともかくとして……青木さんって、こういう所はお好きじゃないんだろうと思ってたんですが、けっこう楽しそうですよね。」

「うん、そうだね。
それに、もしかしたら今日は機嫌が悪いんじゃないかって思ったけど、そうでもなかったから安心した。」

「機嫌って…何かあったんですか?」

余計なことを言ってしまったと思った。
野々村さんは真面目だから、こういう話はきっと好きじゃないだろうし、どうしようと迷ったけど、話し始めてしまった以上、仕方なくて……



「え……?あ…あぁ、別にたいしたことじゃないんだけど…
実は……昨日、兄さん、女の人と会ってたみたいなんだよね。
アッシュさんには遅くなるって言ってたみたいなんだけど、思ったより早く帰って来て…
でも、なんだかその時の機嫌が良くなくてさっさと自分の部屋に入って行ったらしくってね。
彼女と喧嘩でもしたか、なにか面白くないことでもあったんじゃないかって、アッシュさんが…」

「……そ、そうなんですか…
女の人と……」

野々村さんはちょっと慌てたような素振りで顔を伏せた。
やっぱり、思った通りだ。
野々村さんはこういう話は嫌いなんだ。
でも、もう話してしまった以上、今更どうにもならない。



「この前、あんな事があったっていうのに、懲りないっていうのかなんていうのか…
年も年だし、兄さんには早く結婚してもらわないと私も心配だよ。
あんなスキャンダルはもうこりごりだからね。」

「そ…そうですよね……
あ、あ……美幸さん…ポップコーン、食べませんか?
私、買ってきますね。」



そう言うと、野々村さんは私の返事も聞かずに駆け出した。
きっと、今の話が不愉快だったんだ。
あぁ、あんな話、本当に話さなきゃ良かった…
そんなこと考えたってもう遅いけど、野々村さんの後姿をみつめながら、私は気持ちが沈んでいくのを感じてた。
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