赤い流れ星3




「え……どうして…?」

「す、すみません。
私、ついうっかり忘れてて……ごめんなさい。
今日は本当に楽しかったです。
どうもありがとうございました。」

「だったら、お家までお送りします。」

「いえ、私、買って帰らなきゃならないものもあるので…
じゃ、美幸さん……またメールしますね!」



野々村さんはそう言い残すと、まるで逃げるようにその場から立ち去った。



「仕方ないね…
じゃ、どこに行く?」

兄さんは、アッシュさんのその質問が聞こえていないかのように、走り去る野々村さんの後ろ姿をじっとみつめてた。

確かに思い掛けないことだった。
夕方まで思いっきり遊んで、夜のパレードには多少心を残しつつも、兄さんはカラオケに行くと決めてたからそれに従い諦めた。
車の中では眠くなるのを堪えながら、なんとか最寄駅の駅前に着いて、さぁ、これから食事に行こうって段になって、野々村さんは急用を思い出したとかで帰ってしまったんだから。
多少、何かの言い訳っぽい感はありつつも、でも、そういう事がないとは言えない。
お土産を買った後も、帰りの車の中でも特に変わったことはなかったし、きっと本当に何か用を思い出したんだろうとは思うけど、唯一、気にかかるといえば、兄さんの女性関係のことを話したことか…
もしかして、野々村さんがすごく潔癖な人だったら、そんな兄さんのことをいやだと思うかもしれない。
でも、それ程潔癖症だったら、聞いた時点で帰ると思うんだ。
それに、兄さんには今までだってつきあってる人はいたんだし、あの亜理紗さんとのことは日本中の人が知ったと言っても過言じゃないくらい世間を賑わした。
野々村さんだって当然知ってる。
だから、今更、女の人の話をした所で一緒に食事をしたくない程、いやになるはずはない。
うん、やっぱり、野々村さんは何か用を思い出したんだ。



「私、ファミレスが良いなぁ…」

「ファミレスかぁ…最近行ってないし、まぁ、それも楽しいかもしれないね。
美幸ちゃんがそう言ってるから、今日はファミレスにしようよ。
あれ?……カズ?聞いてる?」

「え……?な、なんだって?」

「だから、美幸ちゃんがファミレスに行きたいんだって。」

「ファミレスゥ?」



(ひっ…)



やっぱりまずかったか…
もっと兄さんの好きそうな店を言うべきだったか…
私はただ行きたい場所を言っただけなのに…何でも好きなものを食べさせてやるって言ったのは兄さんなのに……
それなのに、兄さんの視線は身が縮む程、きついもので…
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