教習ラプソディー
一通りの事を終えると、佐伯が助手席に乗り込んだ。
ちらりとその顔を見遣って、横顔も整ってるんだなと余計なことを考える。
こんな教官がこの密室でしかも隣の席に座ったら、確かに女子はキャーキャー言うかもしれない。
「……榛名さんさ、」
視線に気付いたらしい佐伯が口を開く。
詩が慌ててバックミラーの位置を直していると、佐伯はくすりと笑って言葉を続けた。
「もしかして、邑上センセーじゃなくてがっかりした?」
心なしか意地の悪い笑顔を向ける佐伯に、詩の顔がぼっと紅くなる。
「いっ、いいえ! そんなことはっ、滅相もない!!」
「ふはっ、冗談だよジョーダン」
慌てふためく詩を見て、教官用のバックミラーを直しながら佐伯がくつくつと笑う。
どうやらからかわれたらしい事が分かって、ますます顔が熱くなった。
「邑上センセーは学科なんだ。だから俺で我慢してね」
「が、我慢なんて、そんな……!」
ぶんぶんと両手を振るう詩に、佐伯がまた笑う。
「うんうん。ありがとありがと。じゃー、張り切って行きますかぁ」
「う……はい……」
出だしから調子を狂わされ、何とも言えない心持ちでキーを回す。
ちらりと横を見遣ると、佐伯は先ほどとは打って変わって真剣な顔で教習原簿に目を落としていた。
ふざけてみたり真面目になってみたり、どうも掴めない。
やっぱり邑上先生の方が良かった……
「気持ち切り替えてねー。じゃ、しゅっぱーつ!」
佐伯の明るい声にドキリと焦って、思わず足元の操作が疎かになる。早々のエンスト。