教習ラプソディー
「……すみません……」
「いや、ちょっといじめ過ぎたかな。ごめんごめん。落ち着いていこうね」
ぽん、と叩かれた肩に少しの重圧を感じながら、詩は再びキーを回して、今度は慎重に車を発進させた。
***
四時限目が始まりしばらくすると、指導員室にはその時間に教習が入らなかった――『空き』になった指導員が戻ってくる。
「あー。1時間ヒマねぇ……」
そうぼやきながら席に着いたのは山河で、どうやらこの時間は彼女だけが空きになったらしい。
手持無沙汰に指導員室内をしばらく歩き回って、それでも潰せたのは2~3分だ。
他にすることも無いので、指導員室に設けられているコーヒーメーカーのスイッチを入れ、別段飲みたい訳でもないエスプレッソをぼーっとしながら待つ。
そういえば、邑上のやつ大丈夫だろうか。
また課長にじんわりヤキを入れられたに違いないだろうが、佐伯はきちんとフォローしただろうか。
ゴポゴポと音を立てるコーヒーメーカーを見つめながらそんな事を考えていると、指導員室の扉がガチャリと開かれた。
「あちゃ、先客が居たかぁ」
「ああ、もう出来ると思いますけど。サボりですか? 課長」
顔を覘かせたのは神林で、山河は一応敬語ではあるものの、ニヤリと笑っておちゃらかした。
「相変わらず容赦ないなぁ山ちゃんはー……」
トホホとしょげた風を見せながら、山河が退かしたカップの後に自分のカップを乗せて、心なしかウキウキとエスプレッソを待つ。
神林はかなりのコーヒー好きらしく、このコーヒーメーカーを採用したのも彼のゴリ押しがあったかららしい。
「……課長」
「あー、だめだめ。その話は今聞かないよ」