春色デイジー
くそ、こっちは悩んで胃がきりきり傷んだっていうのに。


「あー、面白い」


一頻り笑い、やっと納まったらしい。目尻に溜まった涙を指で拭っている。笑いすぎだ、失礼だ、この人失礼でーす。


「本当は駄目だけどね。花ちゃんあのバイト好きそうだし、何より……」



大きいスライドで一歩距離が詰められて、耳元に寄せられた唇。


「俺の注文を無視した罪は重いよ?」

「(っ、)」


こ、こいつ。根に持ってやがる……!!!


掠れたテノールが鼓膜に響いて、思わず耳を塞いだ。


肩を押し返して離れると同時に声にならずに空気を吐き出した私を見た春斗さんは、口元に人差し指を添えて悪戯に笑う。その表情が酷く楽しそうで。



なんか、


「……あの、なんかエロいです」

「大人の色気と言いなさい」


私は再確認した。この人は、全く以て教師に見えない。そして、危険である、と。

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