春色デイジー
しばらく睨んでみたが、頬を抓られたままの間抜けな顔では全く効果が無かった。何か言い返してやろうかと考えたが、あまり言いすぎるのは止めよう。教師差別とか言い出しそうだし。


可哀想なもう一人の補習者、橋本君。君もきっと先生に苛められてしまうに違いない。共に強く生きていきましょう。同じく英語を苦手とする彼に、早速同族意識が生まれた。




「春斗せんせー!カフェオレあげるー!!」


少し離れたところから、鈴を鳴らしたような可愛らしい声が割り込んだ。私達の会話を聞いていたらしい里奈たちが先生を呼んでいる。

効果音を付けるならば、きゃぴきゃぴといういかにも女子高生なそれになるだろう。残念ながら、それを見送る私にはそんな部分を見い出せない。


おー行く行く。と軽く返事をした先生は私の頭に手を置き、滑らすように毛先に指を絡める。


「さぼんないでネ」

「さぼりませんよ」

「ならいいんだけど。明日からよろしくね」

「(よろしく、したくない……)」

という本音を底意地の悪そうな笑顔で制され、手をひらりと振り里奈の元へと足を進める先生を見送る。



肺の中を渦巻く、よく分からない色の溜息を吐いた。



と、里奈が先生に嬉しそうに駆け寄り、カフェオレを手渡した。それを見て、里奈が先生に抱いている感情が推測から確信へと変わった。憧れから変化した恋愛感情。

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