春色デイジー
顔を上げると、いつの間にか近くに迫った先生の顔が私を覗き込む。


「なーに百面相してるの」

「してません!」

「してたしてたー頭のてっぺんからも伝わってきたー」

「ぐ、」


言葉に詰まった私に勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。くつり、というそれは私を捕まえるには十分すぎる。

伸ばされた指は、顎から頬、瞼へと移動し思わず目を瞑ってしまう。


「、……いったあああああ!」


ばっと目を開け、信じられないという風に目の前の先生を見ると、鬼かはたまた悪魔か。


「キスでもされると思った?」

「思ってないですっ!!」



嗚呼、こんな大人にはなりたくない。と心底思う。


そして、でこピンの被害を受けた額をそっと手で撫でながら、生理的な涙で歪む視界になんとか先生を捉えて睨み付けると、ごめんごめん。と頭を撫でられる。


私の涙目のせいで威力激減の細やかな攻撃は、痛くも痒くもなかったようで。誘ってる?なんて冗談を抜かす先生をど突いてやりたくなった。


< 49 / 73 >

この作品をシェア

pagetop