春色デイジー
「何か、あったんですか?」


自分の口から発された音はあまりに頼りなくて、苦笑い。

そう聞かずにはいられなかった。彼のために私ができることなんて何も無いことは、分かっていたのに。


顔を上げて私をじっと見る彼は、何も言葉を発しようとしない。初対面の人の気持ちを目だけで汲み取れるほど器用な人間ではない。



……そしてなにより、気まずいことこの上ない。


くそう。初対面の小娘のくせにオーダーを無視した挙句、人生相談を促した自分。正直、私自身が一番驚いているし、焦っている。無責任な自分の言動に呆れてきた。


「あ、えっと……すみません。詮索するつもりは無かったんですけど、何か……」


この状況をなんとかしたくて、ははっ、と渇いた苦笑いを漏らすと、彼の形の良い唇が微かに動くのを視界が捉えた。



「ねえ、」


捕まった。彼の深く澄んだ双眸に。落ちる、沈む。……怖い。


「愛ってなんだと思う?」

「……、え」



波打った心臓。

彼の瞳に映った私は、きっと滑稽なまでに揺れていただろう。


グラスの中の琥珀色は既に静止状態。

自嘲的に笑った彼が、私の心をぎゅっと握り潰してしまいそうだ。

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