春色デイジー
「……」
「ごめん、ちょっと嫌なことがあっただけ」
そう言って、また空っぽに笑った彼は、やっぱり泣いているように見えた。
私には何も言えない。それに彼は気付いている。だから簡単にあしらわれた。慰めの言葉なんて求めていない、きっと。
そして彼は何もなかったかのように、私の無責任が体現したカップに口を付けて、一口含んだ。
伏せ目になり、頬に落ちた睫毛の影が妙に色っぽく見える。
それが目の前に座る彼が大人だということを示唆しているようで、自分が子供であることを嫌でも痛感した。
からかわれ、たのだろうか。……たぶん、そうじゃない。
踏み込んではいけない境界線を、好奇心に負けて越えようとした私。
羞恥心、後悔、ぐっ、と唇を噛みしめた。つん、と鼻に走った痛みに抗った。
目を合わせないよう、だたひたすらにグラスを磨き続ける私と彼の間に会話はない。