春色デイジー
「う、わっ」
ぐい、と強い力で引き寄せられたせいで卓馬の背中で鼻をぶつけた。さらに視界は真っ白に支配され、結局周りの景色はシャットダウンされてしまった。
わりーわりー、と若干の笑いを含んだ声が卓馬の背中から振動と共に伝わった。きっと笑うのを我慢しているであろう顔が安易に想像できてしまう。憎たらしい。
「許しませーん」
「わーごめんって」
「おりゃ!」
仕返しとばかりに脇腹をくすぐってやると、自転車は頼りなくふらふらと蛇行する。
本格的に振り落とされそうになったので、大人しく卓馬の腰に腕を回し直して燃えるような焦げるような、夕日を眺める。
夜の帳はもうすぐそこで、暖かいのか冷たいのかよく分からない初夏の風に制服のスカートが靡くのを景色の一部として見つめた。