春色デイジー
手持ち無沙汰になった私は何処か居心地が悪くなり帰ろうかと考えるが、先生のことだ。後で不法侵入罪を吹っかけられる可能性を否めない。既にその罪に片足どころか半身ほど踏み込んでしまっているような気がするのは気のせいということにしておこう。
さて、
暇だ。
コーヒーでも飲もうと、家から持ってきた珈琲を隅の方に置いてあった紙袋から取り出す。
冷蔵庫の水をいただき、コーヒーメーカー本体と電気ケトルに少しだけ入れる。フィルターを折り、粉を平らに均して。それぞれのスイッチをオンにした。
ぽこぽこ、という特有のろ過音とふわりと広がり始める香ばしい香りが心地良い。
電気ケトルのお湯が沸いたのと同時に棚からマグカップを2つ取り出し、お湯を入れて温める。
机に寄り掛かりながら、完成を待つ。
机の上に広げられた分厚い辞書に、頭が痛くなりそうだ、と直ぐに見るのを止めて、先生に視点を移す。組まれた腕の片方には、読みかけであろう英語の本が納まっている。よく落とさないな。
綺麗な指先だ、きっと何回見てもそう思う。これが私の髪に触れて、頬に触れて、ああ、何を思い出している!自爆行為だ!ばーん。
どきり、どきりと急に騒ぎ出した心臓に落ち着けと言い聞かせるが、それほど従順なやつではなかった。暑い、熱い。ぱたぱたと手で熱が集まる顔を扇ぐと、いくらか落ち着いた。気がする。