春色デイジー
そんな重い空気を打ち払うような声と共に、頭上にずっしりとした重みを感じた。
「あ、お久し振りです!あと、俺の可愛い優花ちゃん苛めるのやめてくださいねー」
「……岡本」
これ程、頭上の人物に感謝したことは無いかもしれない。
私の頭に顎を置いているのは同じアルバイトの先輩である岡本さん(通称:岡さん)らしい。そしてこの二人は知り合いらしい。
そんな顔もするんだ。
この場に岡さんがいることが意外だったのか、無表情か不機嫌というバリエーションしか見せなかった彼の表情に驚きの色を見て取れた。
「……えっと?」
二人の顔を見ると、それに気付いた岡さんが紹介してくれた。
「あ、優花ちゃん。こちら大学の先輩の酒井春斗(サカイハルト)さん。卒業してから最近までカナダにいたんだけどね」
ようやく解放された頭上の重みに頭を押さえて、乱れた髪を軽く整える。離れる拍子に、洗剤か何かの淡い香りが鼻腔をくすぐる。
「初めまして優花です」
そう言って、ぺこりと頭を下げると、岡さんにぽんぽんと撫でられた。