春色デイジー
琥珀色を出す勢いが緩くなってきたことを確認すると、お湯をベランダの隅に備え付けられた雨を排水するためのスペースに静かに流す。
2つのマグカップに注がれた焦げ茶色は、ゆらりと静かに揺れる。それを持ってひとつは近くの机に一応ミルクと砂糖を付けて、私の手の中のもうひとつはこげ茶の水面に私をはっきりと映していた。
先生の正面の特等席に腰を下ろしてから、
「先生」
コーヒーは淹れたてが美味しい。そう思って一応声を掛けてみる。
寝ている、どうしよう。と思いながら寝顔を盗み見てやろうという好奇心により、覗き込む。
「……っ」
すぐに、後悔した。
いつもの底意地の悪い嘲笑うような色を映した瞳は瞼の奥に隠されていて、ただ残るのは触れたい、そう思わせるような無防備であどけない姿。
駄目だ、また。私、変態かもしれない。なんて誤魔化すように自分を茶化す。
背筋から首の裏を通って頭に昇ってくる焦燥感と似た何かを、いつものように何事もなかったかのように飲み込む。けれど、
無意識に伸ばしてしまった指先は先生の頬に触れる。
触れた場所から広がるのは、胸を焦がすような痺れさせるような熱。
……素直に、捕まるのは、嫌だった。