Only

お母さんが、何か少し考えてから、ゆっくりと顔を上げた。

「それなら、もう話しておいてもいいかな」

急に雰囲気が変わって、あたしは背筋をピンと伸ばした。


「お母さんね…再婚しようと思うの。
その宮本さんって人と。」


何となく、嫌な予感はしていた。

それなりの覚悟を決めて訊いたつもり。

…でも、こんな答えは想像してなんかいなかった。

そんなあたしの気持ちを知らないお母さんは、話を続ける。

「その人ね、お母さんの初恋の人なの。
付き合ってたんだけど、両親が反対して、結婚は許されなかった。
輝の本当のお父さんとは、お見合いで結婚したんだけどね、お母さんはどうしてもお父さんの事を好きになれなくて。
傷付けるだけだと思って離婚したの」

初めて聞かされる、お母さんの過去。

きっと、色々な事を考えて、再婚を選んだんだと思う。


そしてあたしは、この事を喜ばなければいけない。

…でも、心からおめでとうは言えない。


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