さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
 
果林堂に帰ると、父と子どもの母親が、厨房で何かを話していた。

おぶったまま子どもを連れて厨房に入ると、母親がこっちを向いた。

目が赤かった。

子どもは黙って、実可子の背中から下り、その場に立ちつくしていた。

母親は子どもの側に来て、強く抱きしめた。

「ごめんなさい、って、言いなさい」

母親が子どもに促すと、子どもは

「ごめんなさい」

と小さな声で言い、そのまま泣き始めた。

「申し訳ありませんでした」

母親も頭を下げた。


「もういいんですよ。この子も、きっと魔が差したんだろうと思います。
もう、二度としてはいけないよ。わかったね?」

父は、予想外に優しかった。

あたしは、子どもの側にしゃがんで語りかけた。

「坊や、また店においで。遊びに来るだけでもいいから。いいね? またおいで」


二人は何度も頭を下げながら、帰っていった。

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