さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
潤一さんは手を振って、店を出て行った。

「大学の近くにも、ケーキ屋さんはあるだろうに、わざわざ、ウチで買ってくれるのが、嬉しいね」

母は、本当に嬉しそうだ。


潤一さんの大学は、電車を乗り継いで、40分くらいかかるはずだ。

「果林堂」のロゴが入った紙袋を提げて、電車に揺られる潤一さんを想像した。


(でも、なぜ、大学にケーキを持っていく?)

答えは一つしかなかった。

(彼女の部屋に、持って行く)




大学のそばの、マンションの部屋。

ろうそくに火をつけて、二人で明かりを消す。

彼女が吹き消して、暗くなる。

電気をつけようとする潤一さんに、彼女が指をからめてささやく。

「もう少し、このままにして」

そして、そして、そして……

(うわあ)

あたしの「想像」は、「妄想」となって大暴走を始めた。

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