さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
第12章 志研とおる
「『しけんとおる』っていう歌手、知ってるか?」

商店街の店主の会合から帰ってきた父が、一枚のCDを見せながら、そんなことを言った。

「何これ? 志研とおる『サクラサク』?」

CDには、ハンサムなのか頼りないのかよくわからないタキシード姿の男性歌手の写真が載っていた。

「秋の売り出しに、いい企画がないかと探していたら、作田楽器店のオヤジが見つけたんだな、キャンペーン中の新人歌手を。
それで、客寄せで呼ぶことにした」

「その新人歌手が、この人ね」

「試験に通るって、意味なんでしょう? これ。しかも、歌が『サクラサク』なんて」

母はあきれ気味である。


入試シーズンには、「合格」「とおる」「うかる」「かつ」「はいる」……なんて言葉をもじった菓子がスーパーに並ぶ。

お菓子ならいざしらず、歌手の芸名までそんなダジャレで付けているなんて、悪ノリもいいところだ。


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