さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
寝る前、洗面所で歯を磨いていると、鏡に母の姿が映った。

「実可ちゃん、あんた、気にしなくていいのよ。父さんは、あんたが中学に合格したとき、そりゃ、喜んだんだから」

あたしは目を伏せて、ごしごし、歯ブラシを動かした。

「お金のことも……気にしないで。裕太に関して言えば、お金より……」

「……学力の方が問題だから」

思わずあたしは、歯磨き粉の泡を口にあふれさせたままで、たははと笑った。

「だよねー」

成績がいま一つピリッとしない弟の顔を思い浮かべた。

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