さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
「お父さんが支店を出したのは、……うーん、銀行の、ここに店を開くと絶対いいですよ、なんて口車に乗っちゃったのね。

あとは、男のロマン、ってものよ。
だれでも、自分の力を試したいって思うじゃない。
お父さんの場合、支店を出すってことよ。
だから、男のロマン」

母は洗面所から出て行った。

あたしは口をすすぎ、二階の自分部屋に向かった。

「男のロマン……か」

母はそう言ったが、「重蔵とロマン」は、イメージで言えば「大根とダイアモンド」くらいの隔たりがある。

「男のロマン……ロマンねえ……ロマン。
マロン……男のマロン……
男のマロン・ケーキ……ん?」

部屋に入り、机について、ノートをとりだすと、「男のマロン・ケーキ」と書き付けた。

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