さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
そのとき、チーン、と音がした。

音のする方を向いたあたしの目に飛び込んできたのは、和室の隣の座敷に作られた白い布の祭壇。

手を合わせ、線香をあげているおばあさんの背中。

祭壇に供えられている、あのケーキ。

額縁にはいった男性のカラー写真。
グレーの背広を着て、まっすぐに正面を向いている、初老の男性の写真。

両側に菊と百合の花。

あたしは、やっとわかった。
さっきおばあさんが言った「年をとると、いろいろなものを失っていく」という言葉の、本当の意味が。

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