理想の都世知歩さんは、




【SIDE 都世地歩 宵一】




今日は出版社の日。


“臨時社員”風の社員証を首から下げて中途半端な時間にそろりと出社する。

年末のくっそ忙しい時期に呼ばれることに対して不満がないわけでもないけど、くっそ忙しい時期だからこそなのだろう。

“本業”のショーの方も、冬休みに入ると客足が増えるから時間費やしたいところにこれだ。


年内に片付ける仕事に手をつけて慌ただしいオフィスの端、折り畳み式の長机を引っ張って来て回す書類を捌いたりと雑用を熟していた。


「机…。俺もお前も“臨時”だな……フッ」


「宵一…」


雑音に交じって耳に届いた声と、手にしていた書類に差した影に顔を上げる。


「こんな壁際で壁に向かって話掛けてるなんて、なんか、なんだか」

「うっさい。壁じゃなくて机にだよ」

「あいたたた」


「何で居るんですかー」


問われた菜々美は「打ち合わせ」とはにかむ。


だからか、そわそわして見えた。



「……。行かないの」

「ん、まだ待ってるから。宵一は――疲れてる?」


カチ、と手にしたボールペンから音が弾かれる。


「んー」

短く唸って、首を捻る。

「しりあいが」

「うん」


「最近何回か元気ないって耳にしたから気になっては…いる」


書類の端に視線を留めて呟くと、上からふと笑みの零れる音がした。

「宵一らしいね」






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