理想の都世知歩さんは、
その日の帰り道、衵が帰って来る前に袿と会う予定だった。
…この前、知り合った律も一緒に何故か家で闇鍋やったとき袿が忘れ物したから。
電子マネー、な。
社を出るとき感じた冬の冷たさが、日が落ちるにつれて濃くなる。
ダッフルコートのポケットに指を入れたまま、息は白く浮かぶ。
冷たさが日の手を引いて、夜へつれて行っているようだと。
いつも思った冬。
都会の中の小さな広場を通り過ぎる時、ベビーカーを引いたお母さんとその横を歩く男の子がいて。
目が合った男の子が手を振ってきた。
ちいさく驚いた後、思わず笑ってひらひらと振りかえす。
ポケットから出した手は冷たくなったけど、そこに冷たい何かはない。
――――俺は小学生の時に一度、無意識にも今の仕事に就きたいと思った。
それでも、ずっとそれだけを見てきたわけじゃない。
高校三年の時、その切欠を知る中村さんに会って、初めて改めて、この先のことを考え始めた。
あ。
そういえばヒーローになりたいって初めて思った時、その口で父さんに言ったら、だったら剣道が良いと言われてそれが切欠で剣道始めた気がする。
意外と役に立ったなー、とか、そんなことを考えながらもう一度ポケットに指先を入れたとき。
そこにあるはずのスマホがないことに気が付いた。
「ん」
立ち止まって、ゆっくり後ろを振り返って目を凝らしてみるも、後には落ちていない。
会社に、忘れた。
あの“臨時”同盟の机の上。