理想の都世知歩さんは、
まあ今日くらいいいかと思ったけど、袿との約束がある。
呼ぶ予定がある。
急いで会社に戻ることになった。
息を切らして暗くなったオフィスのある六階に滑り込む。
袿との約束の時間まで余裕があってよかったと思いながら、入口に続く廊下の角を曲がった。
「今晩は」
「!」
び、っくりした。
角を曲がったところに現れたのは「速水」という高校生。
人事等の意向はわからないけど、速水は外部の学生アルバイトだ。
落ち着いてから今晩は、と返す。
「え、と冬休み?」
「今日は別の用です」
いつも淡々と返す奴だけど、今日の表情には少し引っ掛かるところがあった。
「……都世地歩さんは」
「ん」
「――――いえ、何でも」
「速水、」
突然何かを言い掛けて、見上げられる速水の様子がやっぱり不自然だと思った。
「失礼します」
そう言い切るようにして彼が脇を通り過ぎたとき、速水“だから”気が付いたことがある。
菜々美と、何かあったのかって。
だって速水は――――…
「?」
菜々美の、片想いの相手。