理想の都世知歩さんは、
「ご注文お決まりでしたらお伺い致します」
その時傍を通った店員さんが近寄ってそう問うた為話は中断される。
私が適当に答えた後袿くんが付け加えて注文を取っている間に、最低最悪野郎がやっとコートを脱いだのが視界の端に映った。
いつの間にか置かれたお冷は、既に水滴を浮かべ始めて。
ふと息を吐いた袿くんは「宵一ー。気にすんな」って笑った。
気にすんな、って。
「この話、止めよっか」
「え」
慌てた私に、袿くんは優しい横顔を見せたままだ。
「つうか“兄ちゃん”が言うことでもない気がするし」
袿くんはちらりと私を見た。
彼が何を考えているのかが一番分からない。
衵のことを考えて言ったのか、都世地歩さんのことを考えて言ったのか。
それとも。
「“衵”が好きなのは“宵一”だろ」
最低最悪野郎の冷えた声が落ちる。
急なそれは、私には意味が解らなかった。
「…は?」
「和平、言いたいことを我慢するような奴だっけ」
違うよ。
だから、心配なんじゃん。
「だったらそれでも何で我慢してるか考えれば分かるだろ、“宵一”の考えを優先したから――」