理想の都世知歩さんは、
それにしても。
いい加減油断していると、俺の方がまずいらしい。
見落としていた。
ある夕方帰宅すると、すぐのダイニングテーブルで何やら洋服を前に黙り込む衵を見かけた。
「ただいまー」
「おかえり」
視線も合わさず下を見ているので、横に立って覗き込んでみる。
「何」
「え、あーこれは、チルデンニットの丈が着たいのより長いからどうしようかと思って」
は、チルデン?
何だそれと思いながらコートを脱ぎつつ、衵の手元にある紺色ニットから視線をずらすとスカートらしき布も置いてあった。
「こっちのボルドーもミモレ丈からもう少し短くしたいなーしようかなーってとこでね」
「み?何て言った」
聞き慣れない単語に耳を寄せると、衵は固まる。
「?衵?」
「み、みもれみもれ!あの、そのフランスのっ着丈の」
カチコチになって慌てて席を立つ。
足早に俺を通り過ぎて台所端の冷蔵庫の元へと逃げる。
一瞬は、何かと思う。
でもそんな感情もその一瞬で消え去るくらい早く。
短い髪から覗く耳も首も、紅くなっているのが見つかる。
本当真っ赤。
近付いただけでああなるか?普通。ふーん、別に俺はそれ見ても何とも思わないけどね。全然。別に何とも。
「……。……」
あ、すみません今の嘘です。今完全に赤面感染完了しました。