理想の都世知歩さんは、
泣かないでヒーロー
僕には、お母さんがいない。
いるけど、いない。
小学二年生になって、お父さんのお休みができて、遊園地に連れて行ってもらった。
「宵一、ヒーローショー好きか?」
そう聞かれて、本当は好きでも何でもなかったけど好きだと答えた。
後ろの方の席でヒーローショーを見ていたらお父さんの電話が鳴って、電話を切ったお父さんが会社に戻らないといけなくなったと言った。
ヒーローショーをまだ観ていたかったら迎えを寄越すから観ていていいよと言った。
もういいんだったら、お父さんと帰るかって。
僕はまだ観たいと言って残った。
小学生だから、迎えまで一人でも大丈夫だって。
お父さんは僕の髪を撫でて、「宵一はえらいな」と言っていて、ヒーローショーはいつの間にか終わっていた。
周りが段々、オレンジ色になる。
僕より小さな子どもが帰りたくないとお母さんに駄々を捏ねる。
僕は田舎の遊園地から出て、土手と草むらの道脇を歩いた。
すると、子どもの泣き声が僕の後をついてきた。
怖くて怖くて。
耳を塞いで、草むらの中にしゃがみ込んだ。
子どもは、「おとうさん」と言って泣いていた。