理想の都世知歩さんは、




ナントカさんに鍵を開けて貰って、中に入る。

同じ鍵を持っていることに現実味を感じてゾッとしてしまった。


狭い玄関に立ってすぐ、目の前に積まれて目に入るのは兎印の引っ越し段ボール。



「俺も鍵忘れて取り行ってたから今初めて入ったけど。確かにこの段ボールの量見る限り一人分じゃないな。何か二手に分かれて置いてあるし」

「ハイ、ソッスネ」


「和平さん、大丈夫?俺取り敢えず大家さん――中村さんに連絡してみるけど。何か手違いかもしれないし」
「…ウッス」



ナントカさんが、今入ったばかりの玄関を出て行って数秒後、私は地べたに膝をついた。



こんな……。


こんなはずじゃ、なかった。




取り敢えず私もお母さんに電話…。


いや。

ダメだ、できない。今ここで両親に連絡なんてしてしまったら、帰って来なさいって言われるに決まってるじゃないか。私の一年間、地道なアピールが全て水の泡になってしまうじゃないか。そんなの絶対ダメだ。

しかも早速両親に頼って、この先強く生きていけるわけがない。

成長アピール計画まで台無しになってしまう。


嫌だ。嫌だ、けど。


……。


あーー!やっぱりいやだよーーーー!私男性経験皆無なのにいきなりこんなのどういうことなの上様。

しかもあんなイケメンなんていやだよ上様。

こんなところでイケメン運使いたくないよ、もっと運命的で素敵な出会いをだね?


怖いよ、怖い。もう既に免疫のない菌みたいに見えてくる。

ファンとかに狙われるんだよね?ね?





絶望していると背後から光が差し、僅かに背を曲げて中へ入ったナントカさんがスマホをいじったあと私を見下ろして「手違いではないらしい」と呟いた。



気まずそうな顔で影をつくる目元はやっぱり綺麗で、私は泣き出したくなる。


どうしろと!?




「あー……。面倒くさい」



ですよね……。







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