理想の都世知歩さんは、
その夜私は、帰ってきた彼が開いたままの私の部屋を見て何を思ったかを知らない。
むくりと身体を起こしたのは早朝。
蹲るようにして眠っていたからか、身体が寝違えたように痛くて起きた。
まだ肌寒い空気が朝のぼんやりとした脳内の薄雲を攫って、昨夜のことを思い出し、続けて昨夜は“忘れていたこと”まで思い出した。
「……。…、!?」
突然入る力に、身体のどこからか奇妙な音がした。
その鈍痛さえ気にならないほど蒼白になる。
頭の中に、流れてきたのだ。朝っぱらから心臓の扉を叩くキーワード。
確か、昨日。
…貴堂の王子様、私に言ってたよ、ね?
『じゃあ、』
じゃあ…?
『陽が落ちてからの夕飯で待っているので』
!!!!!?
身体中が一斉に針の筵になった気がした。
針が痛くて痛くて、そんな疑似体験をしつつも何とかふらふらと立ち上がり、そのままの足で開いたドアからキッチンへ向かう。
どうしよう、待っていたら。
どうしよう。
それについてはまさかと思いつつ、どの道一分でも昨夜私を待った時間があったとするなら、どうしても謝罪の言葉を述べたいと瞬時に思う。
彼も忘れていたとしたらよかったけれど、兎に角謝りたい。
約束はしていないけど忘れていたのは確かだ。
だから。
だからだから、と寝起きの頭でパニックになったまま、外へ出てみる。頭の中はそればかりだった。