理想の都世知歩さんは、




都世知歩さんはそっと私の髪に指を伸ばしたかと思うと、くすぐったくなるくらい優しく触れた。


おお、お母さんの手か?

ちょっとした気恥ずかしさに笑みを浮かべる。
彼は口を開いて不思議なことを言った。



「ごめんね」


「え?」

驚きの速さで応答する私の声を聞いておきながら、都世知歩さんは表情を変えない。


最近気付いてきた。

都世知歩さんは自由人だ。かなり自由なお人。こちらの声を聞いているのか判らないときがある。


けれど今の彼の表情は、私を心配しているようなそれだった。


まだ起きたばかりで力の入らない指先に、無理に力を入れているような都世知歩さんは。

こっちの方がどうしたんだろうって思ってしまう表情を魅せる。




「昨日の、夜。独りにさせて悪かった」



真剣な顔で、そんなことを言う。

びっくりして、どう返したらいいか分からなくて、何故そんなことを謝ったのか聞いてみると、彼はさらっと「衵の部屋のドアが開けっ放しで、蹲ってるのが見えたから」と、そう答えるのだ。


寝惚けているのかとも思った。


しかし指を離れさせた彼が次に身体を起こしてベッドに胡坐を掻いたから、違うと知った。

私はまた、朝靄の掛かってしまったような頭の中で、外に言葉を押し出す。



「都世知歩さん。あの、」



「…菜々美が、来た?」



都世知歩さんは寝癖をふわふわさせながら、まだ眠たそうな眸に私を映してそう言った。


柔らかい空気で、菜々美さんのことが、この間からずっと聞いてはいけないことだと認識していた私にその表情は不思議で、余計に彼の心内がわからなかった。





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