理想の都世知歩さんは、
きすと春とすきになる
その日、空が澄んだ水色と朝の香りに包まれた頃。
私は再度101号室を訪ねた。
勿論、直接謝りたい人がいるからである。
呼び鈴を鳴らして数秒後。彼は嫌そうな顔を前面に出し、ドアから覗かせた。
「お、おはようございます!あの、昨日、」
「……何?何かありましたっけ」
「え」
睨みを効かせて目を細める相手を前にして私は踏み止まった。
「昨日、ピザ…」
まさか夢だとか勘違いだとかではあるまい。けれど疑り深く尋ねてみる。確かに私は昨日、この綺麗な色の髪も眸も、目にした。
サラサラの髪は、寝癖すらついていない。
「待っ「待ってない」
ん?
貴堂の王子様は、「何言ってるんだこいつ」という目で私を見ている。
が、それは私も同じことを思っているんだ。
「じゃあ、あの男の子は」
「?」
彼は不思議そうに首を傾げた。
その仕草があまりにも現実的だったので、本気で今朝のことが夢だったのかと思うところだった。
「私、朝会って。貴方より少し色の濃い髪色をした男の子。多分貴方のこと、『りっちゃん』って」
「!!」
言葉を続けようとしていた私に、彼は「な、なに言っ…」と、肩を震わせている。
因みに、顔が真っ赤だったので、彼は嘘をついていた。
待っていてくれたのだ。
「ごめんなさい」
頭を下げると、彼は一瞬止まった後「別に」と呟いた。ピザくらいで行ったり来たり、とか何とか続けている。
貴堂の王子様はその後、自分が貴堂 律という名前だからあの男の子――弟はりっちゃんと呼ぶのだと教えてくれた。