理想の都世知歩さんは、
『取り敢えず今日の夜は、101号室の大家さん帰って来るし俺は其処に寝るから安心しろ。で、それまでに色んなことを決めるから』
『はい…』
しわくちゃの私の顔に溜め息をついた彼の名は、都世知歩とかいう怪しい名前だった。(彼は本名だと言い張る。私は他に呼び方の宛てもないので信じる。ただそれだけだ)
それから都世知歩さんに中村さんから帰宅を知らせる電話が入った夜9時までの間、私たちは尽きることなく様々なことについて議論という議論を繰り広げた。
現時点で判る、決められる、細かいことも出来るところまで話合うことが叶ったが、大きなことはつまり。
・勝手な互いの干渉はしない。
・異性としての意識はしない。
こういうコト。
都世知歩さんは以前住まっていた家でもルームシェアをしていたようで(相手の性別は聞かなかった)、そこについての常識は初心者の私より当然信憑性のある雰囲気だった。
ので、少し助かった。
『和平じゃなくて、アコメでいいよね。アコメ、左右どっちの部屋がいい?』
『私選んでいいんですか?』
『ん。まー、初めて家出たっつうなら期待とかあっただろうし。いいよ』
男女問わず同じタイミングで住むことになったらもめるのかなって予想していた部屋取りも何だか気を遣っていただいて、私は玄関から向かって右側の部屋を選んだ。
その時、僅かに。
都世知歩さんが微妙な表情をした気がしたけれど、話は進んで後には戻らなかった。
「それは、凄い……凄いことになったんだね」
「うん、本当そうなの」
翌日、約束をしていた高校時代からの親友である山羊 二雲(やぎ にくも)と駅近くのカフェで待ち合わせていた私は、まさかこんな話になるとはと苦笑しつつストローに口をつけていた。
二雲は私の家の最寄駅から二駅程の町に、同じくこの春から一人暮らし。
私は一人暮らしではなくなったけどね。
一足先にこっちに来ていた二雲は大学生になる。ピンクっぽい淡いベージュに染めたばかりのミディアムヘアを後ろで一括りにして、情報処理に勤しんでいる様子。
「じゃあ今日は未だその…トヨチホさん?に会ってないの?」