理想の都世知歩さんは、




「ううん、朝会った。歯ブラシと着替え取りに来て。荷解きに取り掛かった途中で眠って、気怠けに朝もその作業してるところに来て、『こっちで寝たアコメの方が大変そう~』って笑ってた』

「順応性あるんだね、その人」

「やっぱりそうかな!?普通一晩で受け入れられるものなのかどうか、私もこの場合の常識がわからない…」

「でも何か楽しそう。家変えるわけにもいかないし、ね。楽しむべき衵!」

「そ、そう…するしかないよね、もう。理由はどうであれ、どちらかが出て行くまでってことになりました!きっと今頃家で都世知歩さんも荷解きしてると思う!うだうだ言ってる場合じゃないね」


そうそ、と微笑んでくれる二雲に微弱ながらも笑み返して、心を決める。



「……あれ?まってまって衵」


「うん?」

「状況が状況過ぎて普通にスルーしてたけど、そのトヨチホさん。格好良いんだっけ」

「イエス」

「年上って言ってたっけ」

「イエス。確か今年で21って言ってたから、今二十歳かな?」


「えーー!それはやっぱり凄いわ」


きっと温くなってしまってるカップを手にしながら、二雲は驚きを再取り寄せした。


「なぜに?」

「なぜって、そんなの!私だって想像しただけでドキドキが止まらないよ!?衵、一緒に暮らすんだよ!?へいき!?」

「何!?何か新たな問題発覚!?」


「そうじゃなくてさ、いくら部屋が別々だっていってもそれ以外は共同生活なわけでしょ?……心配になってきた…衵」



心配というのは不思議なもので、二雲が吸い取ってくれたんじゃないかと思う程に私の気持ちは前向きなものになっていたから、移り変わる話題の前、彼女に「大丈夫、大丈夫!」と笑ってみせることができた。










「…大丈夫なのか、それ本当に」



「え、まずかったですか」



陽も沈む頃、帰宅すると同時に揚げ物の良い匂いが充満していて恥ずかしながらお腹が鳴った。

原因は台所に立つ都世知歩さんで、この方は料理も出来るというのだから抜け目がない。さらっと「お帰り、手洗って来い」と言われて危うくホームシックになりそうだった。

都世知歩さんの気を遣わせない人柄のお陰か、素直に買ってきた食材は次の私の料理当番時へ見送られ。



煙草を咥えつつ揚げ物をキッチンペーパーの上へ手際よく移動させていく様子は、揚がった海老でさえ嬉々として見えるから魔法みたいだ。





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