理想の都世知歩さんは、
今夜の晩御飯は天ぷららしい。
都世知歩さんが食べたくなったからだそうだ。
彼が「まあいいけど」と続ける後ろで、私が思うことは違った。
都世知歩さんのイケメンさについてだった。
私も大好きな洋服は、人に愛され人に着られ飾られ、そうやって自分ごと誰かに褒めてもらったり大事にしてもらったりすることの出来る優れものだ。
けれど私だって考えてしまう。
美しい人間には逆らえない。皮肉ではなく純粋に多くの洋服や人間は。
アパートの一室では窮屈そうにすら見える長身の都世知歩さん。
故意的なものなのか生まれもってのものなのか、相変わらずダークブラウンの穏やかな髪は、白い項に短く跳ねているし薄手のベージュニットから見える背中の線は細いながらもちゃんと男の人のもの。
あ、でも腰は細いから元々線は細かったんだろうな~。
「おい」
「はい?」
「見過ぎ」
「っすみません、私人見て似合いそうな服とか考えるの癖でし「へんたい」
否定できない癖ですみません。
「都世知歩さん、きっとタブリエエプロンとか似合いますよね」
「はあ!?」
大皿を手にして振り返った都世知歩さんの顔が青赤しているから、恐らく経験がおありだ。
いいな、格好良い。カフェとかでバイトしてたのかな。ギャルソンとか。
「余計なこと考えてないで食いなさい」
「!わああ海老だけじゃなくて南瓜も薩摩芋も蓮根もある!嬉しい!」
「まあ一応、楽しみにしてた初一人暮らしを邪魔した感は、…なくも、ないから」
そんなことを思ってくれていたなんて、意外で、早速嬉しい。
「都会のお母さんって呼んでもいいですか?」
「だめに決まってんだろ。つーか、思ったんだけどアコメって変わった名前だな」
「いえ、都世知歩さんには負けます」
「はは。…あ、俺はもう荷解き終わったから。今夜からここで寝て『大丈夫』なんだっけ?」
素なのか意地悪でなのか、マイ箸を取りに席を立った私に頬杖をついて見上げる都世知歩さん。箸仕舞う場所とかも決めなきゃなーと呟きつつ、食べずに待ってくれているのはきっと優しさ。
だから私はマイ箸を高々と掲げ、胸を張ってやるのだった。
「とーぜん!ぜんっぜん『大丈夫』です!」